2022-12-23
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人的資本経営とは?中小企業におけるメリットと取り組み方
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「人的資本経営」という考え方が、ここ最近急速に注目されています。
聞いたことがある、気になっていたという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
本稿では、"中小企業と人的資本経営"をテーマに、注目されている理由やメリット、取り組み方について確認していきます。
人的資本経営とは?
まず、人的資本経営の定義を確認しましょう。
経済産業省では、人的資本経営を以下のように定義しています。
人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。
この「人的資本」と似た言葉として、「人的資源」というものがあります。
人的資源は、従来の考え方であり、人材を「資源」と捉えるものです。
この場合、従業員に対してお金を使うことは、コストとして考えられます。
「人件費削減」が良しとされてきたように、従来、人材にかかるコストはできるだけ削減することが求められてきました。
これに対し、人的資本は、人材を「資本」と捉えます。
人材は投資の対象となり、投資によって価値を引き出すことが、企業価値を向上させるという考え方にシフトしてきたのです。
人的資本経営が注目される背景
企業が「人的資本経営」に取り組むことが重視されるようになった背景には、商品市場・労働市場・資本市場の3つの市場環境が変化したことにより、企業を取り巻く状況が大きく変わってきていることが影響しています。
1. 商品市場の変化
「モノ消費からコト消費へ」などと言われるように、消費の傾向が、商品の所有を重視する「モノ消費」から、体験や経験に価値を見出す「コト消費」へとシフトしてきています。
これにより、産業構造にも変化が見られます。
高度経済成長期から大きな比重を占めていた製造業も、80年代にはその比重が低下し始め、90年代にはサービス業が製造業を上回るウェイトを占めるようになりました。
このように「モノ」よりも「サービスによる体験の価値」が重視される社会になったことにより、サービスを提供する企業においては、そういったサービスを生み出すためのノウハウやアイディアを持つ人材の育成が求められるようになったのです。
2. 労働市場の変化
労働市場においては、大きな変化として、「流動化」と「多様化」が挙げられます。
近年、「売り手市場」という言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。。
厚生労働省が公表した『一般職業紹介状況(令和4年10月分)について』では、令和4年10月時点の有効求人倍率(季節調整値)は1.35倍という結果が出ています。
有効求人倍率の推移を見ると、コロナ禍によって落ち込みがあったものの、また上昇傾向にあるようです。
就業しやすい市場環境によって、転職することが当たり前になりつつあり、人材の「流動化」が進んでいるのです。
また、労働市場の「多様化」にも目を向ける必要があります。
「働き方改革」が注目されているように、今後働き方はますます多様化することが想定されます。
企業は、「流動化」による離職防止および人材確保の観点から、こうした「多様化」によるニーズへの対応も求められます。
従業員が働きやすい環境の整備が必須となるのです。
≫参考: 一般職業紹介状況(令和4年10月分)について|厚生労働省
3. 資本市場の変化
資本市場においても、「人材」への関心が高まってきています。
内閣官房の資料によると、投資家に対するアンケート調査において、中長期的な投資・財務戦略において投資家が着目する情報としては、人材投資の割合が67.3%でした。
これに、IT投資(デジタル化) 66.3%、研究開発投資 63.4%が続いています。
また、同資料によると、投資家が人材関連情報に着目する理由としては、「企業の将来性への期待」や「優秀な人材の確保」を重視していることが挙げられています。
≫引用: 非財務情報可視化研究会の検討状況|内閣官房(2022年3月)
このような投資家の関心の高まりを受け、人的資本の情報開示に向けた動きが、世界各国で進んでいます。
まず、2018年12月には国際標準化機構(ISO)が人的資本に関するガイドライン「ISO30414」を発表しました。
その後、2020年に米国証券取引委員会(SEC)が情報開示を義務付けており、この流れを受け、日本でも東京証券取引所が2021年6月改定のコーポレートガバナンス・コードで人的資本に関する項目を盛り込みました。
そして2022年11月には、日本においても人的資本の開示制度の詳細が固まり、2023年3月期決算以降に発行する有価証券報告書から開示が義務付けられることが決まりました。
これにより、大手企業4000社が開示義務の対象になります。
中小企業はまだ義務化はされていないので、関係がないように感じられるかもしれません。
しかし、対象の大企業と取引がある企業であれば、いずれは対応が求められる可能性もあります。
今から「人的資本経営」に関する理解を深め、対策を検討することが重要であると言えます。
≫参考: 人的資本の開示 来年開始|日経新聞(2022年11月28日)
中小企業が人的資本経営に取り組むメリット
ここまでは、人的資本経営を取り巻く状況を確認してきました。
注目されている背景を見ると、大企業先行の動きであり、中小企業にとってはあまり必要性が感じられないかもしれません。
そこでここからは、中小企業が人的資本経営に取り組むメリットについて見ていきたいと思います。
1. 生産性向上
1つ目のメリットは、生産性の向上です。
中小企業は、大企業と比較して従業員数も少なく、「業務の属人化」が発生しやすい傾向にあります。
業務プロセスの見直しや標準化、分業化も求められますが、それがなかなか進んでいない状況下では、従業員一人ひとりの能力向上が、会社としての業績向上に繋がりやすいという側面もあります。
従業員数が少ない中小企業だからこそ、「人材の成長」と「企業の成長」の相関は深いと言えます。
従業員の能力向上を支援する研修の実施や、自己啓発支援の制度整備等、人材の成長を促すための取り組みは、生産性向上に繋がるでしょう。
2. 従業員エンゲージメント向上
2つ目は、従業員エンゲージメントの向上です。
従業員エンゲージメントとは、簡単に言うと「企業への愛着」を指す言葉です。企業への信頼や共感により、「会社に貢献したい」と自発的に思う姿勢のことを表します。
従業員エンゲージメントが高い企業は、企業と従業員の結びつきが強く、離職率も低いと言われています。
さらに、企業への貢献意欲が高いことから、業務に対するモチベーションも高い傾向にあります。
従業員エンゲージメントを高めるためには、まず企業への理解や共感を得ることが重要です。企業の理念やビジョンを理解し、共感してもらうことにより、従業員の主体性も高まります。
その上で、成長を促すためのキャリア支援や研修体制の整備等も含め、従業員が働きやすい環境を提供することも重要になるでしょう。
人的資本経営は、先に述べたように「人材への投資によってその価値を引き出し、企業価値を向上させること」です。
従業員エンゲージメントが高い状態は、人的資本経営の目指すゴールとリンクしていることがわかります。
人的資本経営に取り組むことは、すなわち従業員エンゲージメントの向上を目指すことにも繋がると言えるでしょう。
3. 優秀な人材の確保
続いて3つ目は、優秀な人材の確保です。
前半部分でも触れましたが、今や転職も当たり前になりつつある、労働市場の流動化が進む時代です。
そのような状況で優秀な人材を確保するためには、入社希望者を増やすためのきっかけ作りが必要でしょう。
「人的資本情報の開示」は、人材の育成や多様な人材が活躍するのための仕組み構築等、人材への様々な取り組みの対外的なアピールにもなります。求職者にとっては、入社を希望するきっかけにもなり得るでしょう。
また、外部からの採用と同様に、自社の従業員を育成し、長く活躍してもらうことも重要です。
従業員エンゲージメントが高い企業は、離職率が低いことは先に述べたとおりです。
このように、人的資本経営に取り組むことは、社内外の優秀な人材確保に効果的であると言えます。
人的資本経営への取り組み方
それでは最後に、人的資本経営への取り組み方を確認していきましょう。
1. 経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営を実現するにあたり、経営戦略と人材戦略は密接に関わっています。
それは、これまで述べてきたように、企業価値を持続的に向上させるためには、「人材」の力が不可欠だからです。
そこでまず、自社が目指す姿・目標を明確に定める必要があります。
目標達成のためには、どのような課題があるのかを洗い出すことが、人材戦略を定める上で道筋となるからです。
その後、課題解決のためには、どのような人材が必要なのかを検討し、能力開発等を支援する人材戦略を定めていきます。
経営戦略と人材戦略の連動は、「経営課題解決のための手段として人材戦略を構築する」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
2. 現状とのギャップを把握
自社の目指す姿が定まったら、まずは現状を把握しましょう。
目指す姿と現状とのギャップを確認することで、解決すべき課題や方策を検討することができます。
従業員の配置や保有スキル、経験等の情報を正確に把握することが重要です。
その上で、「どのようなスキルを持つ人材が不足しているのか」「どの部署にどういった人材が足りていないのか」等の具体的なギャップを確認していきます。
3. ギャップを埋める施策の検討
具体的にギャップが浮かび上がったところで、そのギャップを埋め、目指す姿に近づくための施策を検討していきます。
例えば、不足しているスキルを獲得してもらうための「社員教育」や、新たに必要なスキルを持つ人材を迎える「採用」、既に必要スキルを持つ従業員向けの「待遇改善」等が挙げられます。
施策の検討にあたっては、自社の目指す姿は常に念頭に置いておくことが重要です。
4. 施策の実行と効果検証
施策が固まったら、いよいよ実行するフェーズに入ります。
ここでのポイントは、定期的に効果検証を行うことです。
どんなに良い施策でも、やりっぱなしでは意味がありません。施策を実行したことにより、どのような変化があったのか、どの程度目指す姿に近づいたのかを定期的に確認し、PDCAのサイクルを回しましょう。
PDCAを回し、施策の見直しや改善も都度実施することで、効果を高めていくことがポイントとなります。
まとめ
今回は、「中小企業における人的資本経営」を取り上げました。
義務化が決まった大企業とは違い、中小企業においては、人的資本情報の開示がゴールではありません。
今回ご紹介したように、中小企業にとってもメリットは多く、「より良い企業」を目指す一つの手段と言えます。
中小企業は、大企業と比べて経営と現場の距離が近いこともあり、現場とコミュニケーションを取りながら進めやすいという利点もあります。
自社にとって何か重要なのかを再確認する機会として、一度考えてみられてはいかがでしょうか。
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