2022-10-18
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DX推進、どうすればいい?取り組むメリットやポイントをご紹介
- ビジネストレンド
前回のコラム(https://nbs-noc.com/column/detail/1720/)では、DXとは何かを取り上げ、DXの基礎知識を確認しました。
DXは、今や主要なビジネストレンドワードとなっており、聞いたことがないという人は少なくなってきているのではないでしょうか。
企業としては、「DX推進」が今後の企業の成長のカギを握るとも言われます。
そこで今回は、引き続き「DX」をテーマに、特に"中小企業におけるDX推進のポイント"について確認していきます。
「DX推進が必要なのは大企業だけじゃないの?」
「DX推進をしたら、どんなメリットがあるのだろうか?」
「実際に着手しようと思ったら、何から始めればいい?」
このような疑問をお持ちの方へ、本稿の内容が参考になれば幸いです。
中小企業におけるDX推進の状況
まず初めに、中小企業の「DX推進」の状況を見てみましょう。
DXの取組状況
独立行政法人 中小企業基盤整備機構が2022年5月に実施した『中小企業のDX推進に関する調査』によると、DXへの取組状況について「既に取り組んでいる」と回答した企業は7.9%でした。
「取り組みを検討している」と回答した企業を含めても、24.8%にとどまっており、中小企業におけるDX推進がなかなか進んでいないことがわかります。
図1 DXの取組状況(n=1,000)
≫引用元: 中小企業のDX推進に関する調査|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
DXの具体的な取組内容
また、DXの具体的な取組内容については、「ホームページの作成」が47.2%に上り、最も多い回答でした。
続いて多かったのが「営業活動・会議のオンライン化(39.5%)」、「顧客データの一元管理(38.3%)」、「文書の電子化・ペーパーレス化(37.5%)」です。
この結果を見ると、DX推進に取り組んでいると回答した多くの企業が、これまでアナログで行ってきたことをデジタル化するデジタイゼーションという段階にあると言えます。
一方で、回答数が少なかったものに着目してみると、「RPA導入(14.9%)」、「デジタル人材の採用・育成(15.7%)」、「AIの活用(16.9%)」、「IoT活用(19.4%)」という結果でした。
「RPA導入」や「AIの活用」は、DXに向けて、具体的に業務プロセスをデジタル化することを意味するデジタライゼーションに該当します。
今回の調査結果からは、デジタル化に取り組み始めたばかりの企業が多く、DXの前段階であるデジタライゼーションに取り組めている企業はまだまだ少ないということが窺い知れます。
図2 DXの具体的な取組内容(複数回答 n=248)
≫引用元: 中小企業のDX推進に関する調査|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
なぜ、DX推進が進まないのか?
それでは次に、なぜ中小企業でDX推進が難航しているのか、DX推進の課題について考えていきます。
1. 明確なビジョンがない
経済産業省の『中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き』によると、DX推進に取り組むにあたっての課題として、下記のような指摘がされています。
- どんな価値を創出するかではなく、「AIを使って何かできないか」といった発想になりがち
- 将来に対する危機感が共有されておらず、変革に対する関係者の理解が得られない
- 号令はかかるが、DXを実現するための経営としての仕組みの構築が伴っていない
上記のような指摘は、「デジタル技術の導入」が目的になってしまっているケースが多く見られることを示していると言えます。
本来、DXは、デジタル技術を活用し、新たな価値の創出やビジネスモデルの変革を目指す一連のプロセスを指します。
AI等のデジタル技術の導入は、5年後・10年後にどんな会社になっていたいかという経営ビジョンを実現するために、現状とのギャップを埋める過程で活用するものであり、「デジタル技術の導入」が目的なのではありません。
明確な経営ビジョンが定まっているかどうかが、DX推進においてはカギとなります。
≫引用元: 中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き|経済産業省
2. デジタル人材の不足
また、前出の『中小企業のDX推進に関する調査』において、DX推進に当たっての課題としては、「DXに関わる人材が足りない(31.1%)」「ITに関わる人材が足りない(24.9%)」といった人材不足を課題として挙げる回答が最も多い結果となりました。
図3 DX推進に当たっての課題(複数回答 n=1,000)
≫引用元: 中小企業のDX推進に関する調査|独立行政法人 中小企業基盤整備機構
DX推進の担い手となる人材の確保は、中小企業に限らず、大企業においても課題として挙げられています。
これは、日本企業の特徴として、デジタル人材がIT企業に多く配置されているためです。
総務省の『令和元年版 情報通信白書』において掲載された独立行政法人情報処理推進機構の調査結果によると、ICT企業に所属するICT人材の割合は、日本では2015年時点で72.0%でした。
これは、米国の34.6%、英国の46.1%と比較しても高い割合であり、他国と比べてユーザー企業側に所属するデジタル人材が不足していることがわかります。
こうした背景もあり、DX推進にあたって自社内にデジタル人材を確保・育成することが重視されるようになっているのです。
≫参考: 令和元年版 情報通信白書|総務省
3. 予算の確保、費用対効果
また、図3のDX推進に当たっての課題に関する回答のうち、デジタル人材の不足に次いで多かった回答が「具体的な効果や成果が見えない(24.1%)」「予算の確保が難しい(22.9%)」といった効果や費用面の課題です。
DX推進に乗り出す際、システムを導入しようとすると費用がかかります。
その上、既に自社向けに開発したシステムを利用している場合等は、そのシステムから新しいシステムに移行する際にも費用がかかってしまうため、なかなかその費用を捻出できないといった課題があるようです。
こうした費用を捻出するからには、当然「効果」を期待するわけですが、実態としては「具体的な効果や成果が見えない」という回答も2割以上にのぼっています。
効果を出すには、やはり明確な経営ビジョンの下に推進していくことが重要だと言えます。
明確なビジョンを定めないまま、場当たり的にDXに取り組もうと思っても、なかなか効果は期待できません。
そればかりか、効果の出ないシステムの導入により、余計なコストが発生するリスクもあります。
DX推進は「急がば回れ」。
自社が現状抱えている課題を把握・分析し、中長期的な目線で時間や資本を投入しながら取り組んでいくことが、成果を出す近道となるでしょう。
DXのイメージを「単純なデジタル化」から「経営課題解決のステップ」に切り換えることが重要です。
DX推進のメリット
それでは、ここからはDX推進に取り組むメリットについて確認していきましょう。
1. 生産性の向上
RPA(Robotic Process Automation)による業務の自動化、システム導入に伴う業務プロセス見直し等、DXに取り組むことで人員配置の最適化や業務プロセスのムダ削減といったメリットが見込めます。
これまで人の手で行ってきた業務も、RPA等のツールを活用することにより、自動化できるものが出てきます。
それに伴い、削減できた作業時間を他の業務にあてることで、本来注力すべき業務の生産性向上も見込めます。
システムの入れ替えが発生する場合には、業務プロセスを見直す機会にもなり、見過ごしていたムダを省くことにも繋がるでしょう。
2. 企業競争力の維持
現代は、「VUCAの時代」と呼ばれる、社会環境が複雑性を増して将来の予測が難しい時代に突入しています。
変化の激しいビジネス環境においては、圧倒的なスピードで変化を捉え、高速に改善し続けることが求められます。
DXは、こうした環境変化への対応し、企業競争力を維持するのにも効果的と言われています。
勘と経験に頼るのではなく、データを分析することで顧客のニーズ変化を捉え、柔軟に対応していくことが可能になるからです。
3. BCP(事業継続計画)の充実
新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの企業がBCPの重要性を感じられたのではないでしょうか。
コロナ禍で出社して業務にあたることが制限され、多くの企業がテレワークへの対応に追われたことでしょう。
いつも通りに仕事ができず、業務が停滞したという企業は少なくないと思います。
コロナ禍においては、テレワークやデジタル化への対応が、業績の明暗を分けたとも言えます。
こうした事態は、また起きないとは言えません。
日本は自然災害が多い国であるため、なおさら備えておく必要があります。
不測の事態の発生に備え、DXの推進によって、業務の効率化・省力化を図ることは、BCPにも繋がります。
4. DX投資促進税制による税制優遇
「DX推進で税制優遇?」と思われるかもしれませんが、令和3年度税制改正において、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制が創設されました。
DX投資促進税制とは、デジタル技術を活用した企業変革を進める観点から、デジタル環境の構築等の投資について、税額控除または特別償却ができる措置のことです。適用期限は2023年3月末(令和4年度末)とされています。
デジタル要件や企業変革要件等、クリアすべき条件はありますが、予算の確保が課題となる中小企業のDX推進を後押ししてくれる制度です。
DX推進に乗り出すにあたり、検討されてみてはいかがでしょうか。
≫参考: 令和3年度税制改正|財務省
中小企業におけるDX推進のポイント
それでは最後に、DX推進に取り組む上でのポイントについて確認していきましょう。
経済産業省の『中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き』によると、DX実現に向けたプロセスは、「1. 意思決定」「2. 全体構想・意識改革」「3. 本格推進」「4. DX拡大・実現」の順で進めるとされています。
図4 DX実現に向けたプロセス
≫引用元: 中堅・中小企業等向け「デジタルガバナンス・コード」実践の手引き|経済産業省
「DX推進」というと、「3. 本格推進」のイメージが強いのではないでしょうか。
しかし、図4を見ると、DX推進のプロセスにおいて、実際にデータ活用やシステム導入を実施する「本格推進」の前には2つもステップがあるのがわかります。
いきなり「3. 本格推進」に取りかかるのではなく、準備段階のステップにしっかりと取り組むことがDXの成否を左右しそうです。
では具体的なポイントを見ていきましょう。
経営層のリーダーシップ
DX推進には、経営層が強いリーダーシップを発揮することが求められます。
先述の通り、DX推進にあたっては、目的となる明確な経営ビジョンが必要となります。
経営ビジョンに基づいて戦略を策定し、社内の意識改革や体制整備を進めていくのですから、経営層が積極的に取り組み、率いていくことが必要不可欠でしょう。
また、中小企業においては、経営者がリーダーシップを発揮することで、大企業と比べてスピード感を持って変革を進められるというメリットもあります。
従業員の理解を得る
DX推進にあたり、従業員の理解を得られるかどうかは、非常に重要なポイントです。
「なぜDX化を進めようとしているのか」が伝わっていないと、従来の業務内容が変わることを強いられた従業員から、反発が起こることも想定されます。
DX推進によって、影響を受けるのは従業員です。
実際に変革を始める前に、DXの目的や方法、それによって何がどのように変わり、どういった効果が見込めるのかを理解・納得してもらうことは、その後の本格推進をスムーズに進めるために必須となるでしょう。
DX人材の確保と育成
DX推進において、ITに関する知識が豊富な人材の確保は不可欠です。
ただし、先述の通り、日本では多くの企業がデジタル人材の不足を課題としています。
大企業ですら人材不足に悩む状況下では、外部からの採用は難航する可能性が高いと言えるでしょう。
こうした状況を受け、社内の人材をデジタル人材として育成する「リスキリング」が注目されています。
研修プログラムを充実させることは、DX推進においても重視されているのです。
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まとめ
今回は、中小企業のDX推進について取り上げました。
本コラムを通じ、DXは単なる作業のデジタル化ではないことがお分かりいただけたのではないでしょうか。
DX推進は、経営戦略の一つとして、企業全体で取り組んでいく必要があるものです。
その中で、デジタル人材の育成等、DXにおける「人材」の存在は非常に大きなものとなります。
DX推進にあたり、「人材育成」にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
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